アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビがクライスラービルを買収したと聞いて、ニューヨーカーは身震いした。クライスラービルは1930年にニューヨークで建設された高層ビルで、ステンレス鋼製の装飾が施されたその姿は、多くの人々に愛されている。
ニューヨークの格調高い建築物が外資に売却されてしまっても、ニューヨークは依然、ニューヨークであり続けることができるのだろうか。原油相場の高騰によりオイルマネーを得た投資家たちが、ニューヨークの象徴である建築物を愛するのはなぜなのだろうか。
次はどのビルなのか。シーグラムビルか。それともエンパイア・ステートビルか、(はたまた)ロックフェラーセンターだろうか。
象徴的な建築物に対する買収意欲は、文化とキャッシュフローの興味深い融合によって生まれる。経済面から見ると、マンハッタンは長期的には良好な投資先のようだ。ウォール街での大量解雇の波による家賃の下落は短期的なものであるはずだからだ。産油国の投資家たちは豊富な資金を保有しているだけではない。クライスラービルの支配権の8億ドル(約860億円)という目もくらむような価格も、強い通貨で支払えば5億ドルほどに感じられるだろう。
米国人とは違い、産油国の投資家たちはエネルギー価格の高騰や地球温暖化により、自動車の代替となる交通手段が整った米国の都市の価値が高まると考えている。ニューヨークの公共交通機関は、時代遅れではあるが動いてはいる。世界有数の交通渋滞都市であるロサンゼルスでは、1ガロン当たり約4.50 ドルのガソリンを自動車に補給してもどこにもたどりつけないのだ。
ニューヨークの不動産に数十億ドルをつぎ込んでいる中東の投資家らは、 1980年代にオフィスビルの買収を繰り広げた日本人のように涙を流すことになるのだろうか。ニューヨークでは近年、住宅建設が急激に加速しているが、依然、住宅市場が落ち込む可能性はある。ただ、商業ビルの建設はずっと慎重に進められている。マンハッタンのオフィスビル市場は、UAEや北京、モスクワ、韓国の釜山で巻き起こっている建設熱と比較すれば停滞している。
世界一の高層ビル、ブルジュ・ドバイ
欧州、中東、中南米など、どの地域の投資家も、米国の投資家と比べて有名な不動産物件を高く評価する傾向がある。米国の投資家は有形資産の価値を厳格な基準に沿って評価し、その他の要素は無視する。
確かに、新規資金は表面的に目立つ物件や有名ブランドに引き付けられる。米国人の建築家らは中東にジェット機で飛び、大規模開発の象徴的な建物の建設に携わっている。世界一の高層ビルとなる予定のブルジュ・ドバイは、米建築事務所スキッドモア・オーウィングス・アンド・メリルのシカゴ事務所が設計を担当している。高層ビルの建設が進むドバイでは、有名ブランドや目立とう精神旺盛なビルが不協和音を奏でている。
ニューヨークの繁栄
他の多くの国々でも、建築は文化に深く根差しており、格調高い場所を作り出す建築の役割は広く認識されている。多くのテナントが求める床面積の広さはなくてもクライスラービルには高い価値がある。そのブランド価値は、クライスラービルが、完ぺきなまでにニューヨーク独自の繁栄を具現化している点に起因している。
米国の商業建築はいま、先進国で最も弱腰で革新的な試みを避けている。そのことが、格調高いビルの価値を高めている。
クライスラービルの売却は、オイルマネーの勢力のほか、中国やインドの急激な経済成長により経済の中心が米国から移転していることを示唆するという意味でも憂慮すべき出来事だ。
産油国が膨大なオイルマネーを米国に投資することを望む現状を喜ぶべきだろう。米国は、世界人口の5%を占めるにすぎないが、原油の25%を購入している。ガソリン価格の高騰について愚痴を言うのをやめ、状況を変化させるために実効的な対策を講じないかぎり、外国の投資家らは、米国民によって創出された富を利用してもっと多くの歴史的建造物を手に入れるだろう。
(ジェーム(ジェームズ・S・ラッセル)
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