世界的な信用危機の始まりから1年。リセッション(景気後退)が波のように各国に押し寄せ、世界経済に打撃を与える恐れがある。
こうした状況はバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長やトリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁、イングランド銀行のキング総裁にジレンマをもたらしている。世界経済全体が明らかに低迷しているならば、協調利下げもできようが、一部の国は依然として好況で、インフレの脅威を無視できない。景気減速とインフレ加速との板挟みで、欧米の中銀は今週、政策金利を据え置くとみられる。
米シティグループの世界カントリーリスク管理担当責任者、デービッド・リプトン 氏は「現状は特異だ。われわれは1年後に振り返った時に、金融政策担当者が非常に深刻なミスをしたと結論付ける可能性が高い」と語る。「問題は、金融政策が緩和的過ぎたと結論付けるのか、それとも引き締め過ぎていたと言うのか、われわれにはまだ分からないということだ」と説明した。
事は重大だ。主要中銀が政策金利を過度の低水準に据え置けば、世界的にインフレが加速する可能性がある。ただでさえ、国際通貨基金(IMF)はインフレ率が9年ぶり高水準に達すると予想している。金利が高過ぎれば、世界は 2001−02年以来初のリセッションに陥る可能性がある。
過去に米経済が弱くなると、世界全体もほどなく同様の状況となり、原油や商品への需要後退に伴ってインフレは鈍化した。1990−91年や2001−02年の米リセッション時、世界の成長率は半減し、燃料価格は急落した。ところが、今回は違う。米経済は昨年10−12月期にマイナス成長となったものの、世界の成長率は昨年ほとんど低下せず、原油は急騰。米住宅ブームが終わって2年後の今になってようやく、世界的に景気減速が広がりつつある。
FRB内部での板挟み
バーナンキFRB議長はじめ連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーらはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1年前の5.25%から2%へ引き下げた現在、次の一手について意見が分かれている。ダラス連銀のフィッシャー総裁ら一部はインフレ抑制を目的にした金融引き締めに好意的だが、過半数のメンバーは景気動向を見守りつつ静観する方針だ。
米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、米金融当局について「身動きが取れない状況」と指摘する。インフレ抑制でFF金利の誘導目標を3%に引き上げたくとも、依然として脆弱(ぜいじゃく)な金融市場を混乱させる恐れからそれはできないだろうと予想。結果的に「長期にわたって」金利を据え置くだろうと予測した。
ECBのトリシェ総裁のジレンマも似ている。ユーロ圏は昨年、米景気減速による影響を回避したものの、今年4−6月(第2四半期)は大きな減速が見込まれる。米国同様に住宅ブームはスペインやポルトガル、アイルランドで崩壊し、ユーロ高が輸出企業に影響している。
利下げできないECB
世界的に景気低迷が前回始まった01年、ECBは利下げを行っている。今回は違う。インフレ率が約16年ぶり高水準となり、同中銀は7月に政策金利を7年ぶり高水準の4.25%に引き上げた。しかも、賃上げが加速すれば、一段の利上げを実施すると警告している。
INGグループのエコノミスト、マーティン・ファン・フリート氏(アムステルダム在勤)は「ECBは明らかに綱渡り状態だ」と指摘し、09年まで政策金利を据え置くだろうと予想する。
イングランド銀での議論はさらに白熱している。住宅価格急落で英経済が 1990年以来初のリセッションに向かうなか、インフレ率は同中銀が目標とする2%のほぼ2倍だからだ。7月開催の金融政策委員会(MPC)は政策金利を5%で据え置いたものの、利上げと利下げを主張したメンバーもいた。
日本銀行もリセッションリスクに直面している。6月の輸出は03年以来で初めて減少。失業率はほぼ2年ぶり高水準の4.1%に悪化した。消費者物価指数はここ10年で最も速いペースで上昇しており、政策金利が0.5%の日銀が行動できる余地は少ない。
また、中国やインドなどアジアの新興国でも景気減速の兆候が出ているが、インフレ率も高い。ディシジョン・エコノミクス(ニューヨーク)のチーフエコノミスト、アレン・サイナイ氏は「世界経済をスタグフレーションもどきが襲っている。当局者がその正体を見極め、対応するのに正しい決断を下すことを祈る」と語った。
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